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一番最初の金木犀の香り

秋がきて、気付いたらどんどん元気になった。ぎりぎりのところで、それでも腐らないでいたら、ちゃんと良いことが沢山あった。この秋初めての金木犀の香りに気付いたとき、隣には好きな人がいて、その瞬間、驚くほど満ち足りた気持ちになった。心の中の色んな角が取れて、まあるくまあるくなっていくような気がした。手の甲に、こめかみに、身体の奥の方に、あたたかい光が流れていくような感覚がした。私もちゃんと物語の主人公なんだな、と幸福で同時に誇らしい気分になった。

だけど、そんな奇跡みたいな瞬間は本当に瞬間だって知っている。知っているからこそ、しっかりと切り取って心の中に思い出として残しておく。辛い時にはそこからそっと会いたい人や味わいたい気持ちを取り出して、ああこういう瞬間があるから今までやってこれたな、これからもきっとこういう瞬間があるから生活を続けようって思えたりする。

もちろん私は本当に欲張りだから、その奇跡みたいな瞬間を日常的に味わいたいと思ってしまうし、もっと素敵な奇跡を見てみたいと思ってしまうし、少し嫌なことが起こるとそのことで頭がいっぱいになって「選択を間違えちゃったなあ、私はだめだなあ」なんて簡単に思ってしまいがちだけど、どんなに行き詰って先が見えない状況になっても、今まで起こったキラキラした一瞬はなかったことになんてならない。それをちゃんとわかっていれば、私は何度でも自分を持ち直せるっていつも思う。




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恋人の話

恋人の話を何度も書こうとしてやめた。言葉が追いつかなかった。言葉にしたら嘘みたいで、作り物みたいで、それも嫌で。

「金木犀が香る頃手を繋ぎ始めたその人の隣で、私は沈丁花の香りが連れてくる春に気づいた。」

ほらもう、嘘みたいだ。

私は恋が好きで、一生恋に恋して生きてくのかもしれないなあと、半ば人を好きになることを諦めていた頃に、今の恋人に出会って、気づいたら恋よりその人自身を好きになっていた。

掻き立てられて走り出して会いに行ったり、分かってるのにどっちも言い出さなかったり、そんな瞬間は最高だけど、その先にはもっと素敵なものがあることを今の恋人が教えてくれた。


本当に好きになったら、その人の替わりはいないみたいだ。優しさも脆さも強さも、恋人を作る要素すべて、ひとつだって欠けたらだめ

ふとしたときも、そうじゃないときも、だいたいいつも恋人のことが頭をよぎるし、開いた本の失恋物語も、いつか自分が体験するのかもしれないと思うと泣きそうになる。春の夜に観覧車にも乗りたいし、ワインを飲みながらずっと話していたい。私がおばあちゃんになっても手を繋いでほしいし、私の25歳の春も夏も秋も冬も、どんなシーンにもそこに恋人がいてほしい。毎日台風で、布団の暗がりの中で生きていけるなら最高だ、いっそ猫になって隣で丸くなって眠れたらどんなに幸せだろう、そんなことを思うほど、この恋を失うのが怖い。


早く夏が来てほしい。だってまだ夏の夜にアイスを買いにコンビニまで散歩したことないから。もしもこの恋が終わってしまったとしても、きっと私は何度も、幾つになっても、最初に恋人の部屋に行ったあの夜と、展望台からの夜景のことを、思い出す。


ほら、結局、恋人に関して、言いたいことなんてまとめられない。

締めの言葉も見つからない。だからそれっぽいことを書いておこう。

「世界は広いけど、恋人がいる場所が宇宙の真ん中だ。」